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救急医療の課題の解決のために〜トリアージ型 いおうじ応急クリニックの取組み〜良雪 雅医師

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 これからの高齢化社会をどう乗り切るかという事を念頭に「救急医療」という面からアプローチして三重県松坂市で成功している事例がある。
 救急医療と聞けば、二次救急医療を行うER型救急専門クリニックが想像されやすい。症状問わずに、救急医療を気軽に休日や夜間に受診する“コンビニ受診”が増えたことにより、日本の救急搬送は、深刻化している。そんな中、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行う、国初となるトリアージ型救急クリニックを2015年11月に三重県松阪市で「いおうじ応急クリニック」を開院。「いおうじ応急クリニック」は、へき地でもない大都市圏でもない地域での救急医療を支えることに成功してモデルケースとなっている。
 結果、地域の人々が医療について自ら考え、行動するように地域が変わった。救急医療の課題と向き合って、松阪市で取り組んできた実際の事例から「地方の医療をどうやって守っていったらよいのか」を「いおうじ応急クリニック」の良雪医師が語る

松阪市の救急医療の課題とトリアージ型 「いおうじ応急クリニック」の取組み

限界が来ている日本における救急搬送の現状について

救急車で運ばれた事がある方いらっしゃいますか?救急車は、呼べば来てくれて病院に連れていってくれる乗り物という認識かと思いますが、今、そうでもなくなってきています。

例えば、埼玉県の久喜市にて、高齢の男性が救急搬送での受け入れを36回断られなくなりました。

田舎だから人が少なくて断られなくなったのか?と感がえる人もいるかもしれませんが、
田舎だからではなく、大阪や東京でも同じ様に救急搬送が断られなくなった事例がある。

先進国における医療のテーマは人により様々ありますが、わたしの医療テーマは「救急搬送という、ちゃんと動くべきシステムが動かないと、死亡してしまう人がでてしまう」というものです。「救急搬送を利用すれば、死亡しない」というのが先進国であり、必ずしも今の日本はそうではないと感じるのです。

「救急車の出動はいま、限界がきている」といわれてます。年間600万回日本全国で救急搬送が行われています。それは、5~6秒に一回くらいのペースになります。そして、この10年間で100万回増で推移しています。
原因は高齢疾病が増えている事。それ以外には、高齢者は肺炎などになりやすいのだが、老老介護や独居の場合、お金がない場合もあったり(介護タクシーなど呼べない)、家族が車で送ることはできないことが原因にあげられます。

なんでもかんでも救急車という介護施設も少ないとは思いますが、休日とか夜間に病気になると施設スタッフが少ないから救急車を呼ぶ、ということも起こっています。よって、そのうち半分くらいは軽症ということが起こってしまっています。

救急搬送が多いと何が問題になるなのか?

救急隊の到着時間は、だんだん伸びています。同じ人員、車数にて搬送回数が伸びているので当然の帰結になります。昔は到着時間が6分であったのが、今は8分~9分に伸びています。

たった2分~3分と思いがちですが、例えば心肺停止の方の場合、1分間措置が遅れると10%死亡率があがります。知らないうちに20~30%そういった方の死亡が増えている可能性があるのです。

救急車は税金でその存在が許されているが、搬送一回あたり4万円程度の経費がかかります(埼玉県の場合)。「人命とお金」という話にもなりますが、ちゃんとした供給体制ならば、たらいまわしという事は起こりません。

供給体制はどうか、国内の救急病院の数は10年前にくらべ1000か所程度減っている。何故か、医者の数が少ない。特に救急の医者が。救急の医者がいないから救急機能をしめる残った病院は救急の医者以外が救急外来を行っているのです。

救急の医者は大抵なんでも診れるが、消化器内科の医師が脳梗塞ぽい患者についてわからないからと断るなど。対応が出来る病院が更に減っている中、高齢者が増えている。また、専門医の対応が出来る病院も減っているのでたらいまわしといわれる状況がうまれています。

これが、現在の救急医療崩壊のざっくりした全体像と考えます。

 とはいえ、平日の日中であれば問題ないのですが、冒頭の様な「救急搬送でのたらいまわし」がおこるのは、休日や夜間の時間帯で起こっている。

 トリアージ型救急クリニック「いおうじ応急クリニック」の取組み

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 われわれのクリニックについてお話しをします。

いこうじ応急クリニックの医療圏は20万人の三重県の中部にある松阪市(市人口17万人)となります。全国平均の高齢化率は26.7%で松阪は28%、年少人口も平均とほぼ一緒、人口に対する医師数も全国平均とほぼ一緒であり、どこにでもある市町村です。

何がいいたいかといえば、都市部は最新モデルがあります。僻地は僻地なりの特徴ある取り組みがある。
どこにでもある市町村(10万~20万くらいの)といのは、今後なにがおこるのかというとも、あまり注目されていないし、考えている人も少ないのではないかと思われます。
なぜなら、数だけを見れば、医師もそこそこいて、医療も充実していないわけではない。

市民の意識は田舎にすんでいると思っていないが、実は医療はぎりぎりの状態で維持されているというのが、私が持っている松坂にある危機感です。

いたって普通である松阪市にポイントとなる特徴があります。
日本の中都市(10万~50万)でみれば、救急車の搬送件数は一番多いです。
搬送件数の軽症患者は全国平均は50%であるが、松阪は61%であり、大都市を入れても大阪市に次いで2位になっています。

どんどん救急車の搬送件数が増えている。

体感でいうと、クリニックと最寄りの駅の間は10~15分であるが、その間に大体2台くらいの救急車に会うイメージです。
なぜなら、松坂に休日・夜間に対応できる医療機関がないから、このような数字となるのです。

時間外対応がされなくなってきたことによる、救急搬送への弊害

東京では、夜間に診てもらう事ができる医療機関があります。
三重県の場合は、開業医は夜間対応に対応していません。かわりに、開業医の持ち回りで休日診療所がありますが、夜10時~11時頃(時間は地域の対応により異なる)に閉まったりと、早い時間の対応しか内科はやっていません。さらに、小児科や外科は夜間にやっていない事が多く、指を包丁できっても救急車で運ばれることもあります。総合病院はありますが、救急をやっているので、救急車のみの対応であるが故に、救急搬送が増える悪循環になるのです。

かかりつけ医を増やせ増やせという話はあります。
実際には、市民の80%はかかりつけ医をもっています。
しかし、休日夜間対応をやっていないし、夜間の電話にでないなどの問題があります。

対して、救急サービスの電話相談(行政が設けていて救急車呼ぶべきかなどの相談)があります。すると、あきらかに木曜の午後や土曜や日曜に相談件数が多くなっています。これは、木曜の午後や土日は全ての開業医はやっていないからです。

疲弊する医療現場

理由としては、総合病院も昔は、開業医が閉まっている時間帯、「歩いてこれる患者/walk in」という外来をとっていました。医師の数は全国平均ほど在籍し、一晩で100~200人くらいの患者が来て(コンビニ受診含む)しまいます。医師の方が疲弊し、対応できなくなり、救急車のみの対応となってしまったという背景があります。

よって、課題としては、夜間と休日診療が今後どうしていくのかという事。
これは、三重県鈴鹿市、津市などが松阪市と同様となっています。

在宅診療不足による弊害

理由の二番目は在宅診療が浸透していないことです。
在宅医療が救急医療の解決につながると考えていますが、松阪の場合は、在宅療養診療所は平均値よりかなり少なく介護施設が非常に多いです。介護施設の場合でも、在宅医などがついていない事が多いことから、熱を出した場合でも病院に頼ろうという事になるのです。しかし、一般病床数は全国平均より多いのです。

今後、地域医療構想で病床数が減るのが、わかっているのに、この状況を続けていくとどうなりますか?救急搬送が増え続けていくと、今以上に「たらいまわし」等がひどくなると思われますよね。

実際、救急搬送車の半分くらいは高齢者(日本の平均値と同じ)です。介護施設からの搬送は15%程度となっています。
現実に起きているのは、休日や夜間に、施設や居宅の方が他に手段がないので救急車を呼ぶ状況です。

そこで、「救急医療を良くしよう」とすると、施設や居宅の方にいかに介入するかです。

地域医療構想と総合病院の抱える問題点

今まで松阪でも総合病院を中心に頑張ってきました。肺炎など高齢者を入院させ、ADLが落ちて、地域に戻していました。
地域医療構想で病床数が減るのが見えているという状況で、今の体制はもちません。
このまま続けると、二次医療の医師がどんどん患者が増え疲弊してしまい、また、救急隊も人員が増えない状況で取り扱い数が増えるので疲弊してします。

松坂市における救急医療の崩壊の危機を救いたい

私自身の話をいたしますと、山中光茂前市長より「松坂市び救急医療が崩壊の危機だから手伝って欲しい」と声をかけられ、山梨で地域医療をしていましたが、三重大卒という三重とのご縁もあり松阪に参りました。

平成27年に外来特化のクリニックをつくりました。
歩ける患者さん(walk in)は、もちろん救急車の受け入れをしてきました。
1年ほど外来特化のクリニックをやってみて出来るなと思い、1年ほど前から在宅診療もはじめました。内科・外科・小児科という標榜でありますが、診れるものは診るているというのが現況です。

年間5200人ほど来院します。
救急という意味では高齢者は少しずつ増加傾向にあります。
常勤は、私と非常勤の医師1人の計二人です。
そして、年間看取り件数は20~30人程度です。

90%が1次医療診れて、9%が2次医療(入院)、3次医療1%(特殊ケース)で対応可能です。
1次医療で肺炎なども初期であれば対応可能です。

全国の救急においては、1次機能は550か所、2次機能3300か所と需要に対して2次中心で供給過剰となり本来の役割とは異なっている現状があります。
もっと2次医療が集約して、1次医療を充実するべきではないか、と思います。
一般外来は、その様な流れですが救急においては、政府などがアクセス制限をかけるなり考えていく必要性を感じています。そのうえで、初期救急医療機関の充実は必要ですね。

 

よくお話をするのが小売業界の「コンビニと百貨店」。
コンビニは生活雑貨であり生活の90%は賄え、百貨店は特殊なものを買います。小売りで出来ているものを医療でもあるべきではないのか?と考えています。

そのためには、まず、小売りのコンビニとしての立ち位置に、私自身もそうだが総合診療医が、診るべきです。
ただし、「コンビニの取扱商品」的に想像していただくと分かり易いと思うのでが、各クリニックの質が、今はバラバラになっていて、在宅診療をしている医師の中でも経過措置が出来ないなど、いろいろあります。
地域の中でガイドラインやコンセンサスなど今後、整えて行く必要があると考えています。

総合病院と地域医療の連携

肺炎や尿路感染症になった高齢者が、まず救急車で大きな病院に行くのではなく、ちょっとした事ならうちのクリニックや他のクリニックなどで対応し在宅などでみていくべきですし、わたしは、やっていきたいと考えています。

今後、総合病院(2次医療以上)は重症患者のみとなっていきます。なぜなら、今後は病床数が減るので医師も減るからです。そして、医師の当直回数は増えいきます。

我々のような、患者を早期に引き受けて治療していくつもりのクリニックは、「外来特化型クリニック」と呼んでいます。

地域コミュニティにより、育児・医療・介護が変わった

いま、「クリニックでやっている事」を紹介します。「地域として何をすべきか」を考えるコミュニティを作っていく必要があると考えています。我々の調査でわかったのですが、友達が多いほど、すぐ病院にいくのでなく友達に聞く場合が多いのです。不安が強いから病院に頼ってしまうんですね。

例えば、育児でかんがえてみましょう。
素人ではあっても「先輩ママ」に相談する事で。新米ママの問題は解決することがあったりします。

松阪のポータルサイトを作り、2か月に1度、イベントをして松阪に転入してきたママさんを集めたりしていたり、高齢者向けには、独居老人と地域の人と交流イベントをしてコミュニティを作り「地域で住む事」への不安の解消を行っています。

独居老人は要介護、要支援の方が多く、ゆくゆくは地域で課題の共有し、どのようにケアすべきか?など考えていきたいと考えています。
この様な活動を通じて出来た事としては、患者内の高齢者の割合が13%から17%へ2年目は上昇しました。地域の介護施設などにクリニックのポスターを貼ってもらい、「なんでも相談してください!」と2次医療への負担の軽減を図っています。
開院前の事前活動の効果も含め、3年連続で2次医療期間の対応軒数が年間1500人ほど減り、2次医療の医師から感謝されています。

夜間診療は確実に赤字という現状から考える

夜間診療は確実に赤字になっています。理由は、患者がとめどなく来るわけではなく、また重症患者が多い。その様な中で人件費がかかるし、その場で判定しなければいけない様な血液検査などの検査機器(CTなどは置いていない)は、一通り置く必要があるため、初期コストがかかります。クリニックベースでやると赤字ですね。

病院は、受け入れ患者をすべて入院させる事ができていても、救急医療の8割が赤字なのです。

だからといって、人のやっていない事業は採算がとれない、ただし、採算がとれないからやらないでは、世の中は変わらないので、やれる様な仕組みをつくるべきではないかと考えます。

我々の手段は、行政と連携し救急車に費用がかかっているので、委託金をもらい、救急医療や地域医療の仕組みをつくる。そのために、市長と直接話をし、議会も通さなければならず、市議とも話をしました。皆さん、よいですねと言ってくれました。
しかし、唯一、反対する団体がありました。それは医師会です。

この話をすると長くなるので・・・割愛します。

今は、年間2000万ほど市よりいただいて活動をしています。
この様な活動している中で、市民の動きが活発となって新聞にのる様になりました。
この委託金ありきでの仕組みは、首長が代わるタイミングが非常にこわく、実際に、委託金を打ち切ると新しい市長から言われてしまいました。

救急医療だけではなく、地域全体の医療への考えと行動が変わった!

ある市民に相談すると、「それは許せない」という話になり、「いおうじ応急クリニックを守る会」というのが出来て、8000人の署名が集まりました。

私は、フォーラムで救急医療についての話を何度もしてきたことで、市民の意識もかわってきていると感じます。重要なのは、市民自身がどう考えるか?地域の人たちが動き出すと世の中は変わるか、なのではないかなと思いました。

救急医療の課題と解決のためには、1次救急機能の充実、在宅医療の充実、市民の理解、そういったアプローチが重要と考えています。

プロフィール いおうじ応急クリニック院長 良雪雅 (りょうせつ・まさし)

いおうじ応急クリニック院長 良雪雅一般社団法人 i-oh-j 代表理事

2011年、三重大学卒業後、東京都、山梨県などで一般内科医、総合診療医として勤務。医師不足によって救急体制が崩壊し、休日に一次救急に対応する医師が不在になった三重県松阪市で、山中光茂市長の呼びかけを受け、平成26年4月「一般社団法人i-oh-j(いおうじ)」を設立、代表理事に就任。富田浜病院内科 医師に就任。いおうじ応急クリニック院長。

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